ガソリンスタンドは“体験産業”へ:現場から生まれるマネジメントとマーケティング戦略

アイキャッチ:ガソリンスタンドは体験産業へ

無数のガソリンスタンドがひしめき合い、様々なサービスでしのぎを削っている昨今、いかに他社との差別化を図り固定客を増加できるかが、そこで生き残るカギと言っても過言ではない。2012年8月、中和石油株式会社に入社した堀内裕太は、西宮の沢SSで マネージャーとして、従業員とお客様の笑顔のために日々奮闘し、会社の発展に向けて走り続けている。

差別化されたサービス

堀内のマネージャー業務は、収益や車検に関する入庫状況など、数値管理全般にわたる。さらに、新規のお客様を取り込むための戦略立案なども手掛けている。
堀内がこだわっているのは「プラスアルファのサービス」だ。給油はもちろん車検や点検で訪れた顧客に、他店とは別の体験を提供する仕組みづくりに余念ない。

「自動車ディーラーさんでやっていることと同じ内容では意味がない。季節にあった商品や新しい素材を取り入れたりと試行錯誤を繰り返して今の体制になりました。」

屋内休憩スペースに設けている様々なカー用品の展示販売コーナーもその一つだ。

「部品屋さんやカー用品店様と提携して、商品パンフレットとともに詳細の説明ができるスタッフを一名、必ず配置してます。展示する商品は売れ行きや季節、ご利用いただいた顧客情報をもとに定期的に内容を変えます。

カー用品はとにかくバリエーションが多く多角的で、まるで最近の100円ショップのように見てまわるだけでも楽しめるんですよ。車内外グッズや洗車用品はもちろん、改造パーツやメーカーごとの中古部品やアクセサリー、スマホ関連、車内インテリア、チャイルドシートとその関連品まで取り扱うようになっているんですね。」

堀内は続ける。
「車といえば僕の父の頃なんかは男のテリトリーといった感じだったんですが、今は女性や小型車にお乗りのお客様に特化したお店もあるんです。

可愛らしいデザインのカー用品や、運転する女性からの着眼点を製品化した便利グッズなど、いや〜よくできてるなぁって、感嘆してしまいますよ......こういうのを見ても時代は着実に変わり続けていると実感できるし、単なる移動手段ではない車の世界の深さや可能性を、西沢の宮SSで体感していただきたい。お客様の趣味嗜好を押さえていくと同時に、新しいプラスアルファも提案できるように努めています。」

”利用者様”から”お客様”〜そして顧客エンゲージメントへ

西沢の宮SSでは既存顧客の獲得と維持に最も力を入れている。給油だけに立ち寄る客は、西沢の宮SSを選んで利用したわけではない。一番近くにあるかどうかのタイミングや、値段の安さが店舗利用の基準となる浮動客だ。彼らは決まって利用する店を持たない。店側からみれば束の間の行きずり客である。

だが安定的な売上を上げ続けるため重要なのは、西沢の宮SSを長年愛好してきたお得意様たちだ。得意客は給油に訪れるタイミングが規則的で、利用プロセスにもルーティンがある。長年の付き合いでツボを心得ているため個々に接客やサービスを最適化できる。

「そういったお客様はスタッフともお互いに顔と名前を知っていますからね。ですからお名前でお声がけしますよ。ちょっとしたプレミアム客みたいな感じですね(笑)でも特別扱いのサービスを提供してお得意様になっていただいた訳ではありません。一番重要なのはお客様との会話と対話です。利用者様がお客様、そしてお得意様になってもらう段階でほぼ必ずこの2つのステップを踏んでいます。」

西沢の宮SSでは得意客を獲得するため利用客一人ひとりに積極的な声がけをするよう スタッフに推奨している。事務的・マニュアル的な受けごたえではなく、明るく気軽に世間話ができる場だと印象づけるのが最初の会話ステップだ。そういった雰囲気を好むタイプの客は好印象の記憶から再訪してくれる可能性が高い。

また頼まれた仕事をこなしながら客の表情や車の状態などを細かく観察することも欠かさないよう指導する。それを積み重ねることで客が気がかりにしている様子に気付く力が付くからだ。そこが対話ステップの出発地となり、サイクルを繰り返すごとに顧客エンゲージメントは上昇していく。

堀内が実践するこのノウハウはどうやってうまれたのだろうか?
そして、なぜ、堀内はこの方法にこだわるのだろうか?

マネージメントとは

マネジメントについて語る堀内

「スタッフの教育やマネジメントを機能させたいならば (覚えてもらおう・出来るようになってもらおう) の体で教えてもあまり効果がないです。

無意識に圧迫するようなストレス環境においてしまうので、新人さんが定着しないし仕事を教育をする先輩社員にとってもネガティブな感情を引き出してしまうことが、すごく多かったんですね。

そうするとお客様にもそういった雰囲気が伝わるんですよ。そうなったらもうダメ。どんなサービスやキャンペーンも集客の効果がでない、敬遠される。
・・・・・・やはり人なんですよ。」

言葉を一度区切って、堀内はスタンド内をぐるりと見渡す。

「西沢の宮SSはマネージャーとして配属された初めての店舗なんです。つまり栄典ですよね、一般的には。弊社で総合職として入った新入社員はいろいろな部署を回って下積みを重ねていくのが慣例です。その中で社内キャリアの最初の分岐点が実店舗でのマネージャー職に指されるかどうか。

辞令がおりた時は興奮しましたよ! もちろんじゃないですか(笑)
・・・・・・・でもいざここに来て、この西沢の宮SSに立ってみたら、あれだけ意気揚々と乗り込んできて、一店舗を預かるマネージャーとして成果をあげてみせる満々だったのに、あれ?って。憑き物が落ちたように我に返ちゃって......」

本社でデスクに向かって書類や数字のみを相手していた堀内からみれば、現場は想像とは別物だった。毎日イレギュラーなことが起こり、その対応に追われる。

しかも本社から下達されたマニュアル通りに事が進むことはまずなかった。それぞれの顧客の性格やニーズ、期待するサービスレベルや過去の利用履歴、スタッフとの親しみ度合いによって、接客やアプローチは都度つどに変化した。堀内がそれまで積み上げてきた経験や知識やノウハウが通用しそうな仕事はどこにもなかった。

自分はいままで何を学んできたのだろう? 本社で評価されてきた自分の”しごと”は一体何だったのだろう。今自分が持っているスキルの中で、役に立ちそうなものは何もない。自分がここにいる意味はあるのだろうか? 自分がいなくともここのスタッフ達は十分な成果を出している。自分にこれ以上の成果が出せるのだろうか? 一体どうやって?

何をしていいか分からず意味もなくスタンド内を彷徨う日々が続いた。
その日もグルグルと頭を空回りさせながら、堀内は休憩スペースの入口にぼんやりと佇んでいた。給油に来た客の対応を次々とこなしていたスタッフBが、業を煮やしたように堀内に向かって怒鳴った。

「店長さん!空いてるんならこっち手伝ってよ! 次のお客さん待たせてんだよ!!」

堀内はハッと我にかえった。

その瞬間、体は無意識に走り出していた。給油レーンは渋滞している。このSSに赴任したばかりの堀内でも、顔と名前を覚えてしまうぐらい馴染みのお客様が運転席から寄りかかるようにして列の先を伺っている。

(お客様に待たされていると思わせてはダメだ!)

その言葉が堀内の頭へ瞬時に閃いた。

堀内はウィンド用の清掃布を取りに備品室に走った。100枚ほどをまとめてつかみ、専用洗剤をポンプ容器につめる。ついでに誘導灯を抱えると今度はマネージャールームに向かう。

重要書類が積まれた極小の執務室。堀内はパソコンを設置してある業務デスクの引き出しから、系列店舗で使用可能な割引クーポンと自己の名刺を大量に取り出し、他備品とともに急いでスタンドに走った。横切った休憩スペースからアメやガムの盛られたカゴを失敬することも忘れずにだ。

そのまま最後列で順番待ちをしている車両にかけよる。夜逃げでもするような大荷物をかかえ、息を切らしながら笑顔で駆け寄ってくる堀内に、車の中で眉間に皺寄せていた給油客もギョッとして目を凝らした。

「いつも西沢の宮SSをご利用くださりありがとうございます! お客様、只今大変混み合っておりまして、お忙しい中ご不便をおかけし誠に申し訳ありません。通常は給油中にお伺いするのですが、よろしければお車の窓やボディの洗車などはいかがでしょうか? 手ずからにて失礼でございますがどうぞご注文ください。また灰皿のお掃除や、その他何でもご用事ございましたら遠慮なくお申し付けください。」

堀内のただならない勢いに押されて待機列のお客が洗車の依頼をした。早速持ち出してきた備品を用いて手作業で丁寧な洗車を実行する。作業の合間にも顧客とのコミュニケーションは欠かさない。相手の要望を細かく詳細にヒアリングし、それに対応して作業を最適化する。

堀内が心掛けたのは顧客との親しみを込めた会話だった。業務や作業についてのやり取りだけでなく、それとは関係ない様々な話題を持ち出して会話を盛り上げ得ることで、顧客の手持ち無沙汰の意識を”待たされている”というネガティブなものからポジティブな体験に変えさせようと考えたのだ。

洗車をしながら会話を交わしている顧客のみでなく、その前後に並んでいる車両にも話を振って場を広げていく。そうすることで一人の接客で複数の顧客を巻き込んだアプローチを狙った。さらに待機客への事前サービス後に必ず割引クーポン券と自分の名刺を手渡ししてまわった。混雑が解消する頃には、みずから誘導灯を手にスムーズな出口整理を行った。

こうして堀内の本当の意味での初日が終わった。

先を見越した接客術

季節の変わり目には大勢の人がタイヤ交換に訪れる。堀内はそのチャンスを逃がさない。

「車体の下は、お客様自身ではなかなか確認しにくい場所のため、問題に気づかないままになっている場合も多い。そこで『車検のために前もって総合的に点検しておきませんか?』と提案します。」

点検後、すぐに修理を依頼されるとは限らないが、それも計算のうちだ。

「まずはタイヤ交換が収益になります。ただ、やはり車本体に問題があるとなれば、お客様も不安になる。結局、後日修理にいらっしゃる場合が多いのです。」

乗っている本人が気づかないだけで、パーツの損傷やボディの破損など、細部を確認すると問題が見つかることが多々ある。いち早く不具合を解決し、顧客の快適なカーライフをサポートできるのと同時に先々の収益を確保できるという、まさに一石二鳥の戦略といえる。

専門知識を有したスタッフと店舗間の連携で売り上げ上昇

スタッフの専門知識と接客

こうした接客を可能にするため、堀内は従業員たちとのコミュニケーションを欠かさない。

「スタッフが車について豊富な知識を持っていることが大前提です。だからこそ、提案の説得力が増すのです。知識や情報は、日々の業務の中で常に伝え合い、お互いに共有できるよう心掛けています。」

またセルフ式ガソリンスタンドで燃料専門の事業を行うエクスプレス西町と連携し、互いにサービスを補完し合っている。以前、西沢の宮SSを利用した履歴のある顧客がエクスプレス西町を利用した場合、初回からの利用回数や頻度、統計的に割り出した車検制度のスケジュールに合わせて、西沢の宮SSで利用可能な車両点検クーポンをレシートとともに自動配布するシステムを導入したのだ。

このようなルートの整備による西沢の沢SSへの誘導。そして西沢の宮SSからエクスプレス西町への案内もする。そうすることで、会社全体としてみれば顧客が同業他社へ流れるのを防ぐことができる。

目標に向かって楽しむことを大切に

中和石油では店舗ごとに収益の数値目標が設定されているが、堀内にとって一番悔しいのは、それを達成できなかったときだ。

「特に油外収益で前年度比を下回ったときは辛くなります。でも落ち込んでばかりいては始まりません。原因を追求し、日々改善していくことが重要です。目標達成に向け、小刻みに数値を確認し、店舗の状況に合わせた業務を行うようにしています。」

入社当初から堀内は「接客も売り上げも、社内の他店舗や同業他社に負けたくない」と強く思い続けている。それを支えているのは「仕事を楽しむ」という信念だ。

「1日の中で最も長い時間を過ごすのが職場です。ですから仕事を楽しめなければ人生を楽しめていないのと同じです。だからこそ目標達成に向けて楽しんで働くことを、私は何よりも大切にしています。」

高いモチベーションを胸に、堀内はこれからも中和石油の未来を切り拓いていく。